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山の回想録 -剣岳(5) 総括

総括編
(源治郎尾根II峰の向こうに元日のご来光を望む~剣岳頂上直下の登りより)
その他のルート
 さて、長々と剣岳の登山を振り返ってきましたが、他にも源治郎尾根と赤谷尾根から冬に登っています。しかしながら、源治郎尾根は大変でしたが、八ツ峰のそれと比べると印象は薄いです。強いて挙げれば、I峰の登りでいいテント場までたどり着けず、急斜面に雪洞を掘って一晩を凌いだ事くらいで後は意外に順調に登れたという印象が強いです。
 赤谷尾根は長大な剣の北方稜線の一つですが、この年は異例の好天候に恵まれて5月のような感じで登ることができて、冬の剣の厳しさを感じることなく登ってしまっただけに印象が薄いのかもしれません。
 別山尾根は夏の一般ルートですが、このルートだけは積雪期、残雪期には一度も行く機会がありませんでした。このルートも5月はアルペンルートからの入山で比較的簡単に入れますが、冬は入山が大変なルートであり、所属していた山岳会も約10年間通って大日岳経由のルートで登ったそうです。その間、有名な56豪雪などがあったりで話を冬山のテントの中では幾度となく話題になったルートですが、その苦労のあとのメンバーなので、夏、晩秋に登っただけになっています。
 あとは、夏は剣尾根なども登りましたが、冬は入山禁止区域ということで、登る機会はありませんでした。
 また、機会があれば、取り上げてみたいと思いますが、そろそろ別の山についても書いてみようということで剣岳編は今回てひとまず総括しようかと思います。

剣の豪雪

(豪雪の中の撤退~内蔵助平)
 剣岳山域の豪雪は言わずとしれた事ですが、凄いものがあります。一度大雪になれば、場所によっては1mを越える積雪になることは珍しい事ではなく、ルートによらず奥深く入り込んでいる場合閉じ込められる危険は常にあるといえます。そんなことが、悪天の中「突っ込んで」登ることの一つの迷いを生むんだと思います。
 八ツ峰での仲間の話は触れましたが、自分たちの中ではある年の源治郎尾根に向かう途中に大雪に見舞われて大変な思いをしました。山に入って2日目、ハシゴ谷乗越を目指して内蔵助平に出た所の平らな雪の上にテントを立てましたが、その日の夜から大雪になり1時間おきに、夜中に除雪を強いられました。外に出て雪かきをするのですが、1時間経ってテントの周りを1週する頃には、テントに既に多くの雪が降り積もって押しつぶされそうになっているので、そのまま休むことなく次の人に代わってもらって一晩中雪かきをしていました。翌朝には、平らだったテントの周りの雪は軽くテントの高さを越えていてまるで穴の中にテントを張ったようになっていました。
 言うまでも無く、そんな天気で突っ込んで行くのは雪の状態が安定するまでに時間がかかる事を考慮すれば、日程的に厳しいこともあって撤退を余儀なくされました。
 しかし、雪は深く平らな所でも胸から首、急な斜面では背丈を越える雪に阻まれて、おそらく丸一日かけて下ったのは1kmにも満たなかったと思います。翌年の春、その区間を登るのに1時間もかからなかったのに驚いた記憶があります。これが、厳しい危険な尾根だったらと思うとちょっと怖くなります。
 
雪崩の危険
 雪崩の危険は雪の斜面であればいつでも付きまといます。普通の人はテレビや映画などの大規模な雪崩を想像するかもしれませんが、実際は小さな雪崩は頻繁に雪の斜面で起きています。
 私も、ある年の冬、北仙人尾根から剣を目指した際に小さな雪崩に巻き込まれて大怪我をして、ヘリで富山県の山岳警備隊に救助して頂いた経験が恥ずかしながらあります。そんなに大きな雪崩ではなかったので、踏ん張れると思い、ピッケルを深く打ち込んで足をしっかり踏ん張って耐えるつもりでしたが、前を歩いていた人が流れてきて耐えられずに流されました。踏ん張っていたのが悪かったのか、左足の膝の関節を完全に骨折してしまい歩けなくなってしまいました。いろいろ批判を浴びる事もあるとは思いますが、アマチュア無線で救助要請をしました。
 悪天のため1~2日そこに足止めをされトイレにもいけない状態でテントで痛みに耐えていましたが、数時間の好天の間をぬって何とかピックアップしてもらい、病院に運んで頂きました。あのまま、あの足で仲間の助けを借りて下山することを考えると今でも、助けて頂いた事に感謝しております。その後約5ヶ月に及ぶ入院生活とリハビリで現在は何とか普通に歩いて、また山にも登れるまでに回復しています。(時折今でも痛みます)


(富山県県警のヘリ「つるぎ」に吊り上げられる筆者)
 遭難事故に関しては、自分たちの落ち度があることは間違いがなく、余計な事を書くことは控えようと思います。

剣岳
 いろいろ書きましたが、長年通い続けただけあって、忘れる事の出来ない山の一つです。最近、新田次郎の小説「剣岳 点の記」が映画化されました。たまたま、海外出張の飛行機の中で映画を見る機会があって、十数年ぶりに原作の小説を読んだりしました。記録に残る剣岳の登山の記録はこれが最初になるわけですが、その登山ルートに長治郎谷を選んだことに、長年剣を登って来た者として、感じる物がありました。
 今では、黒部立山アルペンルートの開通もあって鎖、梯子の整備された別山尾根は一般ルートとして定着した所がありますが、もし、鎖、梯子が無ければ登るのは容易ではなく、積雪期ともなれば、登るのは他のルートと比較しても大変な物があると思います。そんななか、谷筋のルートに着目したところに凄さを感じるのです。今でこそ、いろいろな記録があって容易にその事は分かりますが、確かに残雪期の谷筋ルートを狙えば比較的安全に早く剣を登ることが出来ると思います。実際、5月末から6月にかけての時期にスキーを持って平蔵谷や長治郎谷を登っていますが納得できます。
 今年はシャスタを登ることを考えていますが、シャスタのルートもまさにこれと同じ事を考えていると思います。尾根筋ルートはそれなりに困難で、ロープを使用して登るエキスパートのルートですが、一般に良く登られているルートはやはり残雪期の沢筋に取られていて、これなら何とか一人でも登れると思ったのがきっかけでした。今まで特にアメリカで登りたいと思った山が無かったのですが、いろいろ調査をしていて、剣と重なるイメージが多かったのにも何か惹きつけられる物があったのだと思います。

 もう、体力も一時に比べて落ちてきていますが、シャスタもまた、剣も機会があれば、また登って見たいなあと思う今日この頃です。
 いろいろ検討した結果、シャスタはメモリアルデーの次の週末に行くことにしました。現在足を痛めているのでその回復具合にもよりますが、だめならまた来年行こうと思っています。

 この辺で回想録の剣編を終わりにしたいと思います。

(剣編 終わり)

コメント

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