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山の回想録 -剣岳(3) 八ツ峰-3

回収山行
(八ツ峰I峰III稜を登る、P5上部の雪稜)

再び春の八ツ峰へ
 「事件」の年の春、残してきたテントなどの装備の回収の為に再び八ツ峰に行くことになりました。ゴールデンウイークに他のパーティが入山する前に登って、回収しようということで早めに入山しました。春なので黒部・立山アルペンルートで黒部ダムまで入って、後は内蔵助谷を通るいつものアプローチで入山しました。
 I峰III稜の取り付きの対岸でテントを張って翌日からの登攀に備えました。時期が早いだけあって他のパーティもいなくて貸切状態でした。余り天気もよくありませんが、登れないほどの悪天でもないのでそのまま出発。取り付きの大岩の近くから稜にでて、大きな岩峰を目指して登ります。岩峰の基部を右側にトラバースして岩峰の左に入っている、通称「スベリダイルンゼ」を上部につめました。少し傾斜の落ちたところで天気が悪くなってきたのでそのまま、斜面を切ってテントをはりました。ちょうどP3の少し手前でした。
 夜中は天気が崩れて風が強くなって、テントのポールが1本折れてしまうアクシデントがありました。どうもそのとき使っていた会社のテントはあまり風に強くないらしく、夜中に応急処置をして再び眠りにつきました。
(写真は3日目P5に続く尾根の登りです)

あれ!?
 それでも、春の天気で悪天は続かず翌日は天気も回復していよいよIII稜の核心部に突入していきました。P3は前回もロープを出して登った小さな露岩でほんの少しですがちょっと高度感があります。
 その先もやや細い雪の稜を行って潅木の急斜面を登ると少し広いP4に出ます。その先は岩が出た稜と続きます。前日の新雪も積もっている事もあって、ロープを固定して順番に通過していきました。でも、あれ!?何か違うぞと思い始めました。というか以前に登っているはずなのにルートを余りよく覚えていなかったのです。
 P5は、リーダーから「行ってみるか?」と言われたので、トップでロープを引くことになりました。空荷でしたが、やや苦戦、途中大きな木につかまって何とか乗り越えると潅木にロープをフィックスして後を通します。でも、こんなところ登ったっけと思うばかり。。。
 実は前回は雪の状態も良かったのでこの尾根沿いの岩稜を登らずに左側から雪伝いにロープも出さずに登っていたので、余り難しいとも思わずに覚えていなかったのでした。
 その後も、前日までの降雪で、膝から股のラッセルをしながら何とかI峰にたどり着きました。
(写真はI峰頂上から八ツ峰をみたところです、ちょっと余計なものが入ってしまいましたが余り余裕もなかったので。。。)

綺麗な雪稜ですが、これでも冬の景色とはかなり違います。

そして現場へ。。。
 そのまま登山を続けてそのまま現場へと向かいました。現場は雪だけでテントの影も見えませんでした。雪に埋もれているだろうとの事でみんなで雪を掘り起こしました。掘り起こすこと数時間、数メートルは掘りましたがそれらしいものに当たりません。。。
 現場はそれほど広い場所でもなく、テントでもあれば分かりそうなものですが、見つかりません。
 時間も迫ってきているのであきらめて、先に行くことになりました。
(V峰の頂上で。。。)

何でも無い登り
 さて、冬は往生してしまったという斜面ですが、ロープもつけずに何の事もなく通過。改めて冬の厳しさを実感しました。
 天気予報は翌日からまた下り坂という事で上部はあきらめてV-VIのコルに泊まって翌日そのまま長治郎谷を下山する事になりました。
 その後、ニュースで知りましたが、八ツ峰で雪崩による事故があったようでした。まあ、下りて正解のようでした。
(V-VIのコルから下山するメンバー)

事の顛末
 その後また、夏の前に他のメンバーは回収に行ったようで、そのときようやく回収できたそうです。やはり雪の量は冬に比べて春の方が格段に多いようでもっともっと雪を掘る必要があったようです。でも、時間と地形を考えると用意ではなく、もっと雪が解けた時期の方がよかったようでした。
 このことから考えると少なくても数メートルの雪の量の差があることになって、山の地形そのものが冬と春とでは大違いだということになります。

振り返れば。。。
 同じルートをほぼ同じ時期に2回登ったわけですが、印象が全く違いました。最初の「階段登り」に対して今回は、まさに自分たちでルート工作をしたわけで、時間も倍以上かかっています。明らかに前回の登攀は、ある意味「登った」のではないように今は思えます。「歩いた」とでも言うほうが近いのかもしれません。今回の山行は、途中で降りているわけですし、苦労も多かったですが、充実感というか達成感は大きいように思えました。そして、このルートを冬登ることの大変さを少しは実感できるようになった貴重な経験になりました。

こうして、八ツ峰への挑戦はまだまだ続くことになりました。
(つづく)

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