トレールランニング ~ LTを超えるペースで
前回は、心拍数によってペースを決める話をしましたが、今回はLTを越えるペースで行動した場合の例を紹介します。
トレールランニング
昨今のランニングブームと関連して、トレールランニングも一部では盛んになってきているように思えます。一般のランニングに対して、トレールランニングはいわゆる山道を走ります。ある意味登山の延長と考える事ができますが、多くのランナーの目標はレースであり、ある意味、限界への挑戦という感じがあります。
山道のレースとは言えごく一部のエリートランナー以外では登りは歩くという選択も必要ですし、エリートランナーさえ一部の急な登りは走る事が難しい事もあります。理屈は同じで、LTを越えた運動は長時間にわたる継続が難しいわけです。それに加えて一般のレースに比べて起伏が激しいので、要求される筋力もさらに高くなるわけです。
私も、登山もしますが、ランナーとして足の調子が良い時はトレールも走りましたし、トレールのレースにも出場したりしました。その中のひとつのデータをLTを越える運動の例として紹介しようと思います。
トレールレースのデータ
トレールレースのデータ例
(緑の実線は標高です)
これはあるレースの心拍数と標高のデータです。このレースは標高1000m強の山を2度登る漢字のコースで総距離が約50kmになるレースでした。残念ながら、ランニングウォッチのバッテリが途中で切れて全区間に渡るデータは取れませんでしたが、幾つかのポイントとなるデータが残っているので紹介します。
ごらんの通り、最初は約10kmほどは登りっぱなしで、心拍数も毎分170回前後で推移しています。その後はくだりですが、レースですので心拍数を維持してのぼりよりはやや少ない心拍数になるペースで走り続けています。しかし、2回目の登りにさしかかるあたりになると心拍数がやや落ち込んできて、走り続けるのが不可能になり、歩いて負荷を減らしました。結局、2度目の登りは、前半の1回目ののぼりのようなペースは維持できずに、徐々にペースも落ちて、心拍数も毎分150回を切るレベルでの運動がやっとの状態でした。その後はデータが切れていますが、歩きをまじえながらだましだまし走って、制限時間の9時間を少し下回るタイムでのゴールでした。
前回の投稿で私のLT相当の心拍数は概ね毎分150~160回の間であると書きましたが、このレースの前後では非常にトレーニングが順調で、恐らく最近の値よりはやや高い心拍数であったと考えられます。恐らく前後のトレーニングの内容と心拍数の記録からみても、毎分160回に近い値であったかと思います。しかしながら、前半は毎分170回を超える心拍数のペースで走っており、下りにおいても、毎分160回を越える心拍数を維持しているので、結局2度目の登りにかかるところで、一旦回復のために大きくペースを落とし、歩いて回復に努めています。
その後も、ペースを回復することは出来ずに、結局毎分150回以下の心拍数で運動している事がわかります。ただし、前半のLTを超えるペースで、心肺系以外の筋肉などにもダメージや疲労がたまり、通常のLT推定値の心拍数で達成できるペースよりは、かなり遅いペースでLT推定値に近い心拍数に達してしまっている事がデータから読み取れます。
LT推定値以下のペースならば速いか?
紹介した例では、私の体の当時の能力から考えると明らかなオーバーペースです。心拍数から考えれば、ペースは50kmのレースでは維持できない事は明らかです。したがって、後半に大きなペースダウンにつながっています。
一方で、LT推定値以下を維持すれば、全体の記録が縮んだかというとそれも疑問です。恐らく後半のペースダウンは少なくなると推測できますが、前半のペースも遅くなるわけで、全体を見れば恐らく大きな差とはならないと考えるのが妥当だと思います。
このように考えると、LT推定値がほぼ同じ水準だとすれば、どんなペースでも、力を抜かなければある程度同じ結果になると推定できます。ただし、体が感じる「きつさ」は若干異なると思われます。
過去のトレーニングや、登山の経験を振り返ると、LT推定値以下を維持した場合、感じる辛さは比較的少ないように思えます。むしろ、全体的に余裕が感じられる分、最後に頑張れる余裕がある気がします。
前回の、Mt.Whitneyも何回も同じコースを歩いていますが、LT推定値以下のペースの場合は比較的余裕があって、具体的な心拍数の記録が残っていないのですが、心拍数を無視したペースの場合は、結果的に若干全体の行動時間は短いようですが、体感した辛さは大きかったように思えます。
登山におけるペースの考え方
今回の例はレースのデータですから、ある意味少しのタイムの違いは大きいと思います。タイムを向上させるためには、多少の「無理」というか「追い込む」事も必要だと思いますし。タイムを出すためには、どこで追い込むかの選択はレースのペースを考える上で必要かとおもいます。
一方で登山の場合は、多少の所要時間の違いは大きな問題ではありません。そう考えれば無理に「苦しい」選択をする理由はありません。むしろ、余裕を持って行動する事は、登山をするにあたって、「安全」という観点からは重要だと思います。
そう考えると、LT推定値を知って、ペースを心拍計付の時計などでコントロールする意義は大きいと考えられます。そして、LT値はトレーニングで改善できる事かんがえると、トレーニングを実践して、ペースの底上げをはかれる意義は大きいと思います。
ポイント
- LT推定値を超えるペースでは長時間のペースの維持は厳しい
- 余裕を持って行動するためには、LT推定値を下回るペースを維持する方が望ましい
- LT値はトレーニングで改善できる
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